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2010年06月10日

手作りカヌーの作り方 材木編(笑)-1



物作りって、これまでの僕の生き方に、様々な影響を与えています。


工作がキッカケで、新しい世界が始まったり、いろんな人と出合えたり…。

今回も、そんな物作りのお話しです。


…それは、思い出すのも恐ろしい、とある命知らずの若者の物語。 (…って、昔の僕の事ですが 笑)

注:今回のお話しは、僕は昔、こんなおバカな事をやってしまった‥。と、あえて笑い話風の構成にしています。
素人手作りの船を奨励するものではありませんし、海をなめる事は大変に危険です。
このネタは、参考にしても、決して真似しないでくださいね!



カヌー(シーカヤック)製作のネタは、材木編からFRP編まで、たぶん長くなると思います。
何回かのシリーズに分けて、不定期連載で書いてみます。




その頃、僕は秘境・西表島の海岸に住んでいました。
1994年の事です。

住んでいた。というと語弊があるかもしれません。
海岸の林の中にテントを張り、長期のキャンプ生活をしていました。

僕の場合、冬は沖縄・夏は北海道。そして、春はアジアの国々…。(×5年)

あちこちに住み込みで仕事をしながら、何年も旅をして暮らす、…いわゆる「キャンパー」と呼ばれた人々の1人です。

西表島の南部。最後の人里から約6Km。

道路が終わって、さらに海岸を何キロも歩いた場所にある、とある海岸が、当時の僕のいた場所。

その海岸には20人ほどのキャンパーが(それぞれ別々のテントに)住んでいて、当時、まだ珍しかった「シーカヤック」を持った人たちも、5人ほど暮らしていました。


キャンパーは通常、他人に構いません。変わり者が多いんです(笑)。

僕は、西表島では新参者。
だれも話しかけて来ませんし、僕も1人になりたい時期だったので、特に気にしません。
( …本当は、ウソ )

でも、シーカヤックだけは羨ましくて、乗せてくれないかなぁ。…とキッカケを考えていたっけ。


ある時、ふと用事で行った石垣島のホームセンターで、子供用のビニール・ボートが6,000円で売っているのを見て、いいかも! と、思ってしまった僕。


これでユラユラ浮かんだら、楽しいかなぁ?

でも、子供ボートに胴体がはまった大人の自分が、一人ぼっちで海に浮かんでいる姿を想像すると、ちょっと「変な人」すぎ!。

さすがに諦めましたが、ふと横を見ると、材木がたくさん売ってます。


その瞬間。ハッと、閃いてしまいました。

そうだ! 材木で、カヌーを作っちゃおう!!(笑)。


すぐに頭の中で設計図を作り、材料を買いそろえました。
領収書は、トータルで1万円ちょっと。かなり大きな、衝動買いです。

手作りカヌーの作り方 材木編(笑)-2に、つづく



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2010年07月21日

手作りカヌーの作り方 材木編(笑)-2



アパートを引き払って、5年ほど放浪生活をしていた旅人時代。

当時、西表島の海岸に住んでいた僕は、ふと出かけた石垣島のホームセンターで 「 材木カヌー 」 という、とんでもないアイデアに取り付かれてしまった。 …と、いうのが前回のお話し

材木で骨組みを組み立て、軽トラックの幌でカバーをする。


今考えると、無謀なアイデアですが、それを実行してしまった僕の過去は変えられません。
そこで、笑い話のネタとして、公開しちゃいましょう。

注:今回のお話しは、僕は昔、こんなおバカな事をやってしまった‥。と、あえて笑い話風の構成にしています。
素人手作りの船を奨励するものではありませんし、海をなめる事は大変に危険です。
このネタは、参考にしても、決して真似しないでくださいね!


(後日、ちゃんとしたFRPカヌーも造りましたよー。そちらも後で書きますね!)



このカヌー作りの話には、前振りがあります。

当時の僕は、カヌーイストの野田知佑氏の影響を受けていました。
大好きだった本は『川を下って都会の中へ』(新潮社)。

いつか僕も、カヌーで旅をしてみたい。ずっと、そう思っていたんです。
でも、買うと20万円くらいするカヌーは、旅人の身では、なかなか手がでません。


材木カヌーの構造


ある時、北海道で仲良くなった友人が、自分の折りたたみ式のカヌーを出して、目の前で組み立ててくれた事があります。

その際、じっくりと構造を見ておきました。

意外と華奢(きゃしゃ)なアルミの骨組みでしたが、外側のシートをテコの原理でピンと張ることで、(張力によって)船体の強度を上げる仕組みになっていました。(なるほど!)


それを思い出しながら、アルミを材木に置き換えて、構造を考えてみたんです。
まぁ、失敗しても1万円だし、笑い話にもなるし、いっか!

気軽に考えて、海岸のテント近くの空き地で、いそいそと組み立てを始めました。


まずは船首部分。厚めのベニヤ板に、斜めにカットした材木をネジで取り付けます。

そして、材木をしならせながら、船体のカーブを作り出し、船尾も同じように製作。
いい具合のカーブになるよう、現物合わせで、幅や高さを切り出した材木で固定していきます。


▲左側が当時の僕です。
最初のうちは、作っている所を見られるのは恥ずかしいので、こっそり隠れて作業していたんです。

でも、海岸に住むキャンパーたちに発見され、日々、次々と誰かが遊びに来るようになりました。

その海岸にいたのは、何年も旅をして暮らしている古強者ばかりでしたが、みんな僕のカヌー作りには興味津々! 子供のように無邪気に、近くで見物してるんです。

今まで、誰も話しかけて来なかったのに、数日でほとんどの人と知り合いになってしまいました。
(当時は考えもしなかったのですが、こうして僕の工作は、いろいろと自分の生き方に影響を与えているんですねー。)


材木カヌー作り、佳境へ



工作を初めて4日目。カヌー製作は佳境に入りました。

骨組みが完成し、防水と腐食防止を兼ねて材木全てをペンキで塗装。
船体布となる「軽トラックの幌」は、ボンドが付かない材質なので、シリコンコーキングを接着剤がわりに使っています。

先に骨組みにコーキング剤を塗ったら、かぶせた幌を思いっきり引っ張りながら「ガンタッカー」(強力ホチキス)で、バシバシと材木の骨組みに止めて行きます。

座椅子の部分も、同じように作り、背もたれはベニヤ板に発泡スチロールを載せて、同じように幌でくるんでガンタッカーで組み立て。

最後の夕方には、完成が近い事を知ったみんなが、10人ほど集まってきました。
「明日は、進水式だな。酒を用意するか」


そんな言葉を聞いたら、何だか急に不安になって来ました。

この 「 材木カヌー 」 が浮く確証は、まったくありません。 
海で漕いだ瞬間、カヌーが折れて沈んだら、どうしよう。 かなり面白すぎますけど…。

つづく


Posted by IGU at 23:59Comments(4)カヌー製作関連
 



2010年08月08日

手作りカヌーの作り方 材木編(笑)-3

アパートを引き払って、5年ほど放浪生活をしていた旅人時代。

当時、西表島の海岸に住んでいた僕は、ふと出かけた石垣島のホームセンターで 「 材木カヌー 」 という、とんでもないアイデアを思い付いてしまった。…と言うのが、材木カヌーの第一話
そして、実際に海岸でカヌーを造ってしまった。というお話しが、材木カヌー・第2話

…以上が、前回までのあらすじ。


ここで、僕の作った「材木カヌー」を、写真で見てみましょう。

一見、本物のカヌーのようですが、中身は冗談に近いシロモノ。
でも意外な事に、実際に海で遊べてしまった、思った以上に実用的なおもちゃです…。

注:今回のお話しは、僕は昔、こんなおバカな事をやってしまった‥。と、あえて笑い話風の構成にしています。
素人手作りの船を奨励するものではありませんし、海をなめる事は大変に危険です。
このネタは、参考にしても、決して真似しないでくださいね!



▲船首側から見たところ。持ち手や、ロープ等の艤装もしてあります。


▲材木フレームの構造。上からトラックの幌を被せ、ファルトボートの仕組みを踏襲しています。

▲後ろから見たところ。船尾には、裏返して水を抜くための穴が複数開けられています。

今回は、この船が、初めて海に浮かんだ日のレポートから…。


材木カヌー、完成!!


いよいよ完成したカヌーをみんなに披露。

シャンパンは無かったけど、一番年長の旅人オジィが一升瓶の泡盛をカヌーと海に注ぎ、なにやら呟いています。

この、ウソくさくも、もっともらしい雰囲気、悪くないなぁ。 オジィも役者やのう。
…そんな事を考えていましたが、今日の主役は、僕。

みんなが見守る中、そっと船を押して乗り込み、海に出て行きます。
ひと漕ぎ、ふた漕ぎ…。ちゃんと、すーっと進みます。面白い!


▲スキャン画像なのでボケていますが、写真の僕は嬉しそうです!

他の、カヌーを持っているキャンパーたちも、それぞれの艇を出して、交換しながら乗り較べ大会が始まりました。

…と、数日前まで、指をくわえて見知らぬ他人のカヌーを羨んでいた自分が、何だかウソのよう。

普通に冗談を言いながら、それぞれのカヌーを乗り較べて遊んでいるのが、とても不思議な気分です。

※ナイショだけど、実は浮くかどうか、夜中にこっそりと漕いでみました。生まれて初めての、海上を滑って行く感覚に、とても感動したのを覚えています。でも、後から聞いたら、何人か見て笑っていたようです。(爆)


当初、この材木カヌーは全面、軽トラックの幌仕様でした。
後日、石垣島に出かけた際、看板屋さんで、お店のヒサシに使うビニール生地を購入。
これもトラックの幌と同じように、高耐候性かつ、耐水性パツグンの生地です。
青を1m×2m。…オマケで白を50cm四方ほど。

デッキは全て看板生地に張り替えました。
最初の方に載せた写真は、生地を替えた後のバージョンです。

船内には、沈没防止のために、海岸で拾った発泡スチロールの固まりを船首と船尾に押し込んでヒモで縛っておきました。 これで、万が一浸水しても、船が沈む事は無いでしょう。

コックピット後ろには荷物室も作り(白いカバーの部分)、食料等の買出しは、途中(舗装道路が始まる場所)までこのカヌーで行っていました。
酒瓶などの重い荷物をたくさん積んでも、人が小走りで海岸を歩く程度のスピードが出るので、非常に楽でした。


ところで、強度について。
意外な事に、この「 材木カヌー 」 は、大きな波を被っても、波乗りして毎日遊んでも、一ヶ月くらい、壊れませんでした(期待してた人、ゴメンなさい)。
組み合わせの位置とか、何か偶然が重なって、ある程度の強さになったのかもしれません。
でも、今考えると、ホントに偶然の産物のような気もします‥。

実際、人が乗った状態で船首と船尾を持ち上げても壊れない位、意外な程の強度があったんです。
注:テストは一瞬です。また、骨組みが「材木」なので、耐久性は無いと思います。一ヶ月後、僕は別の地域に移動し、その後はあまり乗っていません。

船底には、下が見えるように窓も付けて、グラスボード仕様にしてみました。

でもこれは、止めておけば良かった。

外洋に出て、真っ黒な海を覗くと、やたら怖かったです。
(懲りずに、次のFRPカヌーでも、窓を付けましたが…)

なお、海岸で引きづっても大丈夫なように、船尾には外側にも材木を付け、船首には幌を縫って持ち手も作りました。
最初に作ったパドルは、ヤザキのイレクターパイプ(組み立て家具用)に、ベニヤ板をネジ止めした簡単なもの。

注:経費の1万ちょっとの中には、オールや各種工具代も入っています。


材木カヌーで長距離遠征


最初の遠征は、西表島の南部、仲間川です。
小さな車輪を縛り付けた 「 材木カヌー 」 を、自転車で引っ張り、仲間川の河口へ。

河口あたりでは広い川ですが、中流あたりからだんだん川幅が狭くなっていきます。
観光船がたくさん通るので、波を受けるとバランスを崩してヒヤヒヤする事も…。

それでも、船上の観光ガイドの案内がタダ聴きできるのに釣られ、頑張って一隻の船を追いかけてみました。

「皆様、右手に見えますのが○○岩です。そして、後ろに見えますのが、カヌーでございます(笑)」

観光客が一斉に振り向いて、カメラを向けてきます。あらら~。

女の子の一人が、僕の手作りTシャツに気づいて「た・び・ん・ちゅ~!」と声をかけてきます。
なんだろう、この恥ずかしさは…(爆)。




次は、西表島南西部の鹿川湾にも行ってみました。
西表島には、半周しか道路が通っていないので、このあたりは人の訪れる事のない秘境です。


キョリ測のサイトで測ってみると、当時暮らしていたテントから、片道10km以上! の海を渡る大冒険(当時の僕にとって)です。
注:少しでも海が荒れると、経験者でも危険な地域ではあります。→詳細はいずれ…。

この時は、みんなが鹿川に行った事を知って、クーラーボックスにビールを積んで、出かけてみました。

「その船で、遠征は無謀だろう!」 さすがに、到着するなり、そう言われましたね。

帰り道は常に両サイドに誰かが付き、大波が立つリーフ突入の際には、いつでも飛び込めるように後ろで待機してくれていました。(…結局、材木カヌーは全然大丈夫でした。)


そして、北海道へ


西表島を出る際、知り合った一人が、餞別だと言ってカヌー用のパドルを一組くれました。
ちゃんとした船なんだから、あり合わせのパドルじゃ、みっともないよ。

「 材木カヌー 」 に不釣り合いなくらいにマトモな、カーボンシャフトのパドルです。 感動を胸に、一路、北海道へ。

この時は、自作キャンピングカー(ハイエース)で全て陸路を北上して行きました。
…沖縄本島→鹿児島→福岡→大阪→新潟→青森→北海道。


2回目の北海道では、当時、一番濃いキャンパー(旅人)たちが集まると言われた、美瑛の「かしわ園」に行ってみました。

と、何人かが出迎えてくれて、車の屋根に積んでいたカヌーについての質問攻めです。
どうやら、誰か有名なカヌーイストと勘違いしている様子。


すぐに誤解は解けましたが、やはり 「 材木カヌー 」 には、みんな興味津々。
そこから、夜の宴会まで話は続き、すぐに何人かとうち解ける事ができました。

ここでのお馬鹿な日々や、北海道での旅のあれこれも、書くともう果てしないのですが、それはまた別の機会に…。


さて、次の冬、再び西表島に渡った僕は、いろいろ勉強して「FRPカヌー」を作ることになります。
と言うわけで、次回からは、今度こそ「本物のカヌー」の作り方編です。

…つづく。


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2010年09月20日

FRPカヌーの作り方 - プロローグ 「 心のエンジンが‥ ! 」

◆カヌー制作関連の過去記事



俺以外に「心の中でハムスターが車輪を回し続けている感じの駆動感」を理解してくれる人がいるのだろうかと思い悩む。



上記は、さっき、ふとsi_noさんがtwitter上でつぶやいていた、言葉。

対象はぜんぜん違うと思うけど、実は、僕が今まさに、そういう状態。
心の中で、何かに取り付かれたかのように、一つの小さな想いがグルグル廻りはじめている。


昨日、海で遊んでから、ずっと「チムドンドン(ドキドキ・ワクワク感)」が、止まらない。

自分の船を、もう一度造りたい!
そして自由に洋上を旅してみたい‥。 という想いが、心の中をどうどう巡りしている。


えっと‥、何のことだか、解らないですよねー。

実は昔、僕は西表島でFRP製のシーカヤック(カヌー)を手作りして、それに乗ってずっと遊んでいたんです。

忘れたと思っていたけど、気が付けば今も、手を伸ばせば海はすぐそばにある。
そんな環境にいる事を、楽しく過ごした昨日の海で、すっかり思い出してしまいました‥。
(10年以上、僕は沖縄本島に在住。でもその間、ほとんど海には出ていません‥)


▲昔、作ったFRPカヌー。‥処分してしまったので、今は現存しません。


なぜ忘れていたかというと、海で死にかけたから、かなぁ‥。

そんな無邪気かつ無謀な、「自作FRPカヌー作り」にまつわる物語りを、再び思い出しながら書いてみようかと思うんですよ‥。
で、あわよくば、どこか場所を借りて、もう一度カヌーを造りたいなと‥。

つづく。 (以下、不定期連載)




緩募:風雨がしのげて騒音OK、6m×2mの空間×3ヶ月!


関連記事 → 手作りカヌーの作り方 材木編(笑)-1 ~


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2010年10月16日

「FRPカヌー製作の サワリ! 」 - IGU marin96 (1/4)

◆カヌー制作関連の過去記事



「もう一度、自分の船を造りたい! 」
少し前のブログに、そう書いたけど、どうやら行けそうです! 作れそうです!!


とあるメンバーで「FRPカヌー製作プロジェクト」を立ち上げよう。
そんな動きが聞こえてきました。もちろん、僕も参加の予定!

製作の工程はぜひ、このブログでも連載して行きたいと思いますが、その前に紹介したい物があります。

それは、今から10年以上前、僕が西表島で作った資料。
僕がカヌーを造るのを見ていた友人達に頼まれて、簡単に「FRPカヌーの作り方」についてまとめた冊子です。




執筆は1996年。
あのGoogleが日本で始まったのが2000年8月ですから、それよりも、だいぶ昔。
現代のようにネットで情報を集められる時代ではなかったので、ほとんど当時の僕の知識だけで書いたものです。

今になって見返すと、甘い部分もありますが、工程についてはある程度網羅しています。何より、カヌー製作直後にまとめた「リアル感」があるので、一部訂正しながら公開してみようと思います。

少し長いので、4回のシリーズに分けます。

→ 「FRPカヌー製作の サワリ! 」 - IGU marin96 (1/4)
   「FRPカヌー製作の サワリ! 」 - IGU marin96 (2/4)
   「FRPカヌー製作の サワリ! 」 - IGU marin96 (3/4)
   「FRPカヌー製作の サワリ! 」 - IGU marin96 (4/4)

一応、お約束ですが、注意点など。
・本情報はFRP造形の一般論を述べているもので、誰にでもカヌー製作ができるものではありません。
・本情報を真似した結果によるいかなる損害も、当方では保証しかねます。



カヌー製作。各用語についての一般論



1,型について
一般的には、型というとメス型を指します。
型にFRPを張り込んで硬化させ、固まった後に外すと、型の内側の形状がそのまま製品の表面を形作ります。
FRP製品を作る際、型の素材は、できるだけ表面が滑らかで薬品に侵されないものなら、いろいろな物が使えます。
工業的なレベルでの量産なら、金属の型が使われる場合もありますし、単品製作なら段ボールや粘度なども選択肢に上げられます。

いずれも、できる限り強固に作っておけば、それだけ長い期間使えます。
カヌーの場合、離型の際にバールを使ってコジって剥がす例もあり、最低でも3~5プライ程度の強度は必要と思われます。

メス型を使う場合に重要な点は、型の表面が「鏡のように」滑らかだということ。
FRPのポリエステル樹脂は、瞬間接着剤なみの浸透力・強い接着性を持ちます。
もし、型の表面にキズがあった場合、その隙間に樹脂が入り込んで型と製品を接着してしまいます。すると、離型の際に双方が破損してしまいます。

貴重なメス型を壊さないよう、ショップでは小さなキズも見逃さずに、コンパウンドで型の表面を徹底的に磨くといいます。

メス型を作ってカヌーを作るとしたら、全長5メートルに及ぶ型取り用の試作品の表面、及び製作したメス型の内側を「鏡のように」磨き上げる必要があり、毎回、細心の注意を払って製品を作り、型もマメにメンテナンスする労力が必要となります。

単品~数艇程度の製作なら、使い捨ての内型を作り、表面にFRPを積層して作る方法がお勧め。
これなら型を磨き込む労力は必要ありません。製品表面の仕上げは、型とは無関係に改めて行う事となります。

なお、ポリエステル樹脂は強い接着性と書きましたが、一部に接着しにくい材質もあります。例えば、紙製のクラフトテープやビニール、ポリプロピレン等。これらをうまく型作りに使うのも、手です。


2,下処理
メス型の表面を徹底的に磨いた後、専用の離型用ワックスをかけます。
(2010現在ではいろいろな製品が販売されており、液体状で乾くと薄いビニールの膜状になる離型材もあります。)
石垣島の木田商会で聞いたところ、自動車用のワックスでも離型できるそうなので、1996年は車用を使用。少しでもワックスが乗っていない場所があると、接着してしまうので、何回か繰り返しかけた方が良さそうです。


3,ゲルコートとは
FRPに使われる不飽和ポリエステル樹脂は、硬化の際に少しだけ収縮します。
中のガラス繊維は縮まないので、硬化後はガラス繊維の模様(凹凸)が表面に浮き出てきます。
また、表面に気泡等が現れてしまうと、製品の価値を下げてしまいます。

ツヤを出し、表面の状態を良くするため、FRP製品作りでは先にゲルコートを塗るのが普通です。ゲルコートは積層用の樹脂よりも硬度が高く、表面保護の役割もあります。
先に固まったゲルコート層は、ガラス繊維の模様に影響されず、鏡面加工されたメス型の滑らかさをそのまま写し取るので、製品の表面は鏡のようにツルツルになります。

ゲルコートは着色されたものもありますし、専用の色素を混入して調色する事も可能です。(木田商会ではゲルコートは有りませんでしたが、着色料は売っていました。しかし、かなり高価‥)


4,不飽和ポリエステル樹脂とは
各メーカーから出ていますが、硬化剤も同じメーカーの物を準備して、指定量混ぜるのが基本。(メーカーにより、成分・分量の指定が異なる場合があります)

サーフボード用など、紫外線吸収剤入りで高透明度の物もありますが、カヌー製作の場合は面積が大きいので、安い漁船用などが良いでしょう。

不飽和ポリエステル樹脂には、ノンパラとインパラの2つのタイプがあります。
違いは、パラフィン(ワックスの一種)が入っているかどうか。

通常、ホームセンターで売られているのはインパラタイプが多く、硬化後は表面がガチガチに固まります。
対して、ノンパラタイプは、硬化しても表面にべた付きが残ります。

何回も積層する場合は、それぞれの層の接着性が良いノンパラを使います。そして最後にインパラで仕上げ、表面を固めるという手法。

インパラタイプのみを使う場合は、完全硬化する前に積層する必要があります。
もし数日に渡る作業で表面が硬化してしまった場合は、剥離を防ぐために粗めの耐水ペーパーで表面を処理する必要があります。


5,FRPとは
不飽和ポリエステル樹脂を、ガラス繊維で補強した繊維強化プラスチックの事を、一般的にFRPと呼びます。(Glass)fiber reinforced plasticsq の頭文字。
カーボン繊維を使った場合は「CFRP」。

ガラス繊維には、大きく分けてマットとクロスがあります。
  クロス:布のように織られたガラス繊維。引き裂き強度は高いが厚みが無く、面の強度が弱い。
  マット:フェルトのような不繊織。引き裂きに弱いが造形にすぐれる。

ちなみに、オートバイの燃料タンクをFRPで造形する場合、最低でもマット・クロス・マットの3層構造が必要と聞いたことがあります。通常は両方を組み合わせ、お互いの利点を補足しあうように作ります。
補強繊維はガラスが一番安いですが、非常に強度の高いカーボン。弾力性と引っ張り強度に優れるケプラー等が知られています。
ただし、カーボンの場合はポリエステル樹脂との相性の問題もあり、通常はエポキシ樹脂が使われます。取り扱いも紫外線硬化や熱硬化等、別の技術も必要となってきます。


6,FRPの張り込み
特に「集中」できる作業環境が必要。

樹脂はベトベトして、手に付くとなかなか取れません。
樹脂を扱う作業中は、他の事はいっさいできないと思った方がいいです。
また、硬化時間との勝負もあるので、作業にかかる前に、一切の段取りをしておく必要があります。

まず、ガラス繊維のマット(またはクロス)を、だいたいの大きさにカットして並べておきます。次に、樹脂に硬化剤を混ぜて、スタンバイ。

最初に、メス型にローラーでたっぷりと樹脂を塗ります。
ガラス繊維を狙った位置に貼り付けたら、再びローラーに樹脂を付けて、ガラス繊維から空気の気泡を押し出すように転がします。下側の型の色が透き通って見えたらOK。
全ての面積を張り終わったら、次の2プライ目、3プライ目を同じ手順で重ねていきます。
剥離を防ぐため、なるべく一気に作業していくのがベストです。


7,硬化・離型
FRPを張り込んだ後、完全硬化する前に、少しだけ柔らかい「ゲル状」の時間帯があります。
メス型からはみ出したFRPは、この時にならカッターやハサミで簡単に切ることができます。
ただし、タイミングを逃すと、金鋸を使っても、刃がすぐに鈍ってしまう程度の強度になります(ガラスですから! )。

メス型を使用する場合は、余分な部分をカットした後、左右(または上下)の型を正確に位置合わせして、内側から接合部をFRPで補強。補強部分も完全硬化したら、型を分割すると製品が取り出せます。

ワックスが確実に効いていれば、バリバリっと音を立てて、スッポリと型から抜けてきます。
最後に合わせ目部分を、もう一度表面からFRPで補強すれば完成。

仕上げの艤装をすれば、製品のカヌーとなります。




というわけで、ここまで駆け足で基本をおさらいしてみました。
元の資料の3ページ目までの内容です。


4ページ目からは、実際に製作したときの写真を使いながら、説明しています。
次回からは、その内容をリライトしながら、紹介したいと思います。



▲西表島一周時の写真。(引き潮でリーフに乗り上げて、満ち潮まで待っていた時に撮影)



Posted by IGU at 22:07Comments(5)カヌー製作関連
 



2011年02月12日

僕が海で死にかけた話。‥with手作りシーカヤック(その1)

友人のブログで、海の事故の話が書かれていました。
この件、僕はまったくの部外者なので、内容やコメントは避けます。

ただ、事故というものは、いくつもの悪条件・アクシデントが重なって起こります。
泳ぎや操船が上手でも、関係ありません。


‥今の僕は、海から離れて久しく、危険と接する事も、経験を話す機会も、ほとんどありません。
今回は、個人的な体験談として、とある海での昔話を綴ってみます。


経緯・状況




僕は5年ほど、日本やアジアの国々を旅していました。
旅の先々、各地の農家や漁協、工場等に住み込み、お金を貯めては次の旅に出る「キャンパー」という暮らしです。足は、最初はバイク、のちに自作キャンピングカーでした。

当時の僕は、製糖工場に務めた後、自分で作ったシーカヤックで、沖縄の西表島を一周していました。

カヌーはパフィンという市販の船体をベースに、少しスピードが出るように形状変更したものです。

コックピットの前後に密閉した荷物室を持ち、数百リットルの道具を積める構造。
自作の船ですが、頑丈に作ったし、絶対に沈まない信頼感を持っていました。

ここに水と食料、ダイビングや釣りの道具、お酒やキャンプ用具を詰め込み、数週間の予定で旅に出たんです。 ( 注:僕は一人遊びが得意なタイプ ♪ )


当時、ベースキャンプにしていた西表島の南部、南風見田(はえみだ)浜から出航し、左回りで西表島を一周。

途中、プライベートビーチを見つけては、長居したり、素っ裸で暮らしたりしていたので、旅程の3/4ほどを回った頃、すでに3週間が過ぎていました。

そして、鹿川湾という場所で、悪天候のため一週間ほど足止めを食ってしまいました。


最大の難所、パイミ崎を超え、後はベースキャンプに帰るだけ。 冒険は終盤に近づきつつあります。

問題は、食料。 西表島の半分近くは無人地域なので、買い出しができません。
この時はお酒が切れ、お米も数日分となっていました。

ラジオの天気予報は「沖縄近海には熱帯低気圧が停滞しており‥」。 そんな放送がずっと続いていましたっけ。


天気のスキを付いたつもりが‥


小さなテントの中から、一人で雨の海を眺めるのも飽きたある朝、ふと沖に見える波が、いつもより収まったように感じました。

「ウサギが跳ねる」といいますが、三角波が砕けて白い飛沫が見えると、海は荒れています。

その日は、少し穏やかな気がしました。
今日を逃すと、いつ帰れるか分からない。


出航しよう。

そう決心して、雨の中、遠征用テントを撤収し、シーカヤックを海に出しました。
沖に出てみると、まだまだ海は荒れていますが、何とかなりそう。

余裕が無かったので、行っちゃえ! 急かす心に勝てなかったんですね。


荒れる海


行ける。と思ったのは最初の数キロだけで、次第に海は荒れてきました。

大きな波のウネリの上に出たり、谷底のような下に落ち込んだり。波はどんどん大きくなっていきます。


引き返すべき?

何度か考えましたが、戻ったところで食料が続かない危険があります。

選択肢は二つ。
数日分の食料を食い伸ばして耐乏生活に入るか、体力がある今のうちに進むか。

都会と違って、無人地域では「飢え」という言葉が、リアルです。


何より、一週間もテントに閉じ込められると、精神的に戻るのを拒否してしまいます。
そして気がつくと、見たことの無い荒れた海の中、一人ぼっちの、ちっぽけな自分がいました。

この頃の僕は知らなかったのですが、沖縄あたりの「熱帯低気圧」とは、内地で言う低気圧ではなく、台風とほとんど同等の嵐を指す言葉だったんですね‥。

大きなウネリは、常に一定の方向からやって来ます。それにかぶさるように、三角波。
もう、引き返すにも、転覆させずカヌーの向きを変えるのは困難な状況に変わっていました。

バランスを崩さないために、前に向かって漕ぎ続けるしか有りません。

自分を信じて先に進んでいるつもりで、僕は多分、考えるのを止めていたのでしょう。


南風見田浜、発見。


悪戦苦闘して漕ぐうち、見覚えのある地形が見えてきました。

最初に出発した、ペースキャンプのある、南風見田の浜です。
(ついに一周! でも、それどころじゃ、ないって)



沖縄の海岸は、珊瑚礁で囲まれているため、「リーフ」という自然の堤防のような海底地形があります。
リーフ内は波が静かで穏やかですが、リーフの外側付近は急激に浅くなるため、普段でも波が立ちます。


南風見田浜は、南の風が吹くと波が高まり、カヌーではリーフを超えるのが困難になりますが、となりの「ボラ浜」に一箇所だけリーフの切れ間が有る事を知っていました。 よく、潜ったり、カヌーで波乗りして、遊んでいたからです。

そこは外洋側から見ても、波が無いのですぐ分かります。
迷わず、僕は船首を向けました。

浜まで、あと、500メートル。


リップカレントの、罠‥


まずは慎重に、航路を観察します。
その日のように海が荒れていても、確かに、波は少なめです。

少し考えた末、一気に船を漕ぎ入れました。
ここまで来れば、きっと大丈夫!


と、異常なウネリの中、何も分からないうちに、カヌーは転覆していました。

リーフの裂け目には、時に強烈なリップカレント(離岸流)が発生します。

普段は、外洋への航路となる、静かな間隙なのですが、海が荒れると話しは変わります。
波によってリーフ内に押し寄せた海水が、そのリーフの切れ間から、溢れるように外洋に流れだして行く、危険な場所になるんですね。 (そこに突っ込んでいった僕は‥)

これも、当時は知らない現象でした。


気がつくと海流に押し流され、それまで見たことが無いくらい、岸から離れた、はるか洋上にいました。

そして僕は、溺れかけていました。
‥信じられないことに、この時、同時に2重3重の悪運が、まとめてやって来たのです。

続く‥。 → 僕が海で死にかけた話。‥with手作りシーカヤック(その2)

Posted by IGU at 20:11Comments(5)カヌー製作関連
 



2011年02月16日

僕が海で死にかけた話。‥with手作りシーカヤック(その2)

今回は、手作りカヌーで、沖縄の西表島一周の旅に出かけた際の実況、第2話です。

不運というものは、一つ一つは大したこと無くても、まとめてやってくると、対処が難しいです‥。

以下、長文となります。


前回のまとめ‥


天候不良で旅程が伸び、ついには食料が切れかけた状況下。

熱帯低気圧が停滞している中、飢えるか冒険するかの判断を誤った僕は、シーカヤックで荒海に漕ぎ出してしまった。 ‥というのが話の始まり。
→ 僕が海で死にかけた話。‥with手作りシーカヤック(その1)

場所は西表島。

何時間か漕いて、ゴールの海岸まで、あと500メートルまで近づいた僕は、状況判断を誤り、不意に転覆してしまいました。

というのが、前回までの抜粋です。


ちなみに、その時の僕は、西表島一周の戦利品として、珍しい「ガラスの浮き球」を、数十個もゲットしていました。
中でも、特大サイズの3つは、コックピットに入れて運んでました。(荷物室はいっぱいだったので‥)

海が荒れていたため、スプレーカバー(コックピットに海水が入らないためのカバー)をしており、ガラス玉はその中の、足の間に仕舞っていたのです‥。

写真:自作のチャック式のスプレーカバー。

付け加えておくと、転覆時、ライフジャケットは、付けていませんでした。

旅程の後半、急に海が荒れたある晩に、流されて無くなってしまったんです。(その夜はカヌーも流され、500m程離れた岩場で発見・回収しました。そんな話も、いずれ‥)


重なるアクシデント。(てか、重なりすぎだろ!)


リーフの切れ間から溢れ出す離岸流(リップカレント)で転覆し、はるか沖合いまで流されていく僕を、更なる不運が襲います。

まず、転覆のショックでカヌーを漕ぐパドルが、真ん中のジョイント部分から外れて、左右に別れてしまいました。

頭上の海底に向かって沈んでいく片方のパドルに、必死に手を伸ばしましたが、届きません。(海中で僕は、完全に真っ逆さまの状態)

写真:自作のパドル。水中でも目立つ黄色に塗ってありました。


しばらくもがいた結果、半分になった片側のパドルだけでは、転覆状態から起き上がれない事が分かったので、船からの脱出を試みました。

ベルクロ式で作ればよかった‥。 焦りながら自作スプレーカバーのチャックを外すと、海水がカヌーの中に入ってきます(ここでも、数秒のロス‥)。

そして、出ようとすると、足の間のガラスの浮き玉が、とにかく邪魔!

猿とヒョウタンの話ではないけど、狭いコックピットの中の複数の浮き球に引っかかり、足が曲げられず、抜け出せないのです!

‥ここまで、ずっと息は止めたまま。 肺の空気はどんどん尽きていきます。

大切な浮き球を海に捨て、何とか船内から脱出に成功!

海上に顔を出し、ギリギリで、わずかな空気を吸ったのも束の間。
重ねるように、更にトラブルは続きます。


あぁ、そういう事なんだね‥


脱出したあと、カヌーの上に這い上がろうとした僕に、次のアクシデントがやって来ました

カヌーに掴まり、身体を引き上げようとすると、船体がぐるぐると回ってしまいました。
すると同時に、なぜか足が持ち上がっていきます。

?? なんと、船体に舫いであったロープの束がほつれ、そこに足が入ってしまった、ようなのです。

僕の身体は船に巻き取られ、突然、泳ぐ自由を奪われました。

ヤ・バ・い‥。

三角波の中で身体が沈み、息ができません!

悪いことって、最悪のタイミングで、重なるんだ‥。

きっと、こういう時‥。 意外と簡単に人は死ぬんだろうな。 ふと、そう悟りました。


半分のパドルで‥


船から離れたら、助からない。
分かっていたけど、いったん水に潜り、足からロープを外します。

外したロープを手繰ってカヌーに戻り、裏返った船体を起します。
何度か滑り落ちながら、再びコックピットに乗り込む事に成功。


この間、右手に持っていたパドルは、ずっと握りしめたままでした。
(つまり左手だけで船から離れ、水に潜って行ったわけです。 汗!)


‥そして、気が付くと、予備のパドルが、見当たりません。
確かに、船体に積んであったはずなのに、ちゃんと縛って無かったため、どこかに消えていました。

なんてこった‥。
わずか数分の間に、トラブルがこんなに集中するなんて‥。


漕げずに、不安定なカヌーの中でバランスをとりながら、船内の海水を汲み出しつつ、考えます。

片側だけのパドルで、これまでの数時間の行程を再び引き返すのは、おそらく不可能。
かと言って、さっき転覆したリップカレントに再チャレンジする気力は、もう有りません。

となると、近くの港を目指すのが最良に思えました。


西表島の玄関口。整備された大原港まで行けば、きっと安全に違いない。
しかし、これも判断ミスだったのです。


巨大な水の壁


沖合まで流された心細さから、なるべくリーフに近づき、パドル一本で精一杯漕ぎながら、先を目指します。

僕のシーカヤックは、友人に溶接してもらったステンレスのラダー(舵)が付いていたので、片側だけのパドルで漕いでも、まっすぐに進むことは可能でした。

そうして進むうち、なんだかおかしな事に気が付きます。

波が異様に高いのです。


ラジオで、波の高さ6メートルとか聞いてましたが、どう見ても倍は有ります。
もしかして、0メートルを基準に、上に6メートル、下に6メートルとか‥?

って、合計12メートルじゃん!


実際、3~4階くらいある高さのウネリに押し上げられると、向こうのウネリの波高まで、25mプールの長さ以上あります。波の底に落ち込むと、空が狭く感じます。
明らかに、巨大波の海域に、迷い込んでしまいました。

しかも、リーフの外側を迂回しているうちに、いつしか、時々見える陸地が、どんどん遠ざかってしまいました‥。

ヘタをすると潮に流され、西表島はおろか、石垣島にも辿り付けないのではないか。
そんな不安が心をよぎります。


大きな地図で見る

もう、どうしたらいいのか‥、海の中で一人、僕は途方に暮れてしまいました。

後から聞きましたが、南風見岬の沖は、南風の吹く時は地元の漁師は近寄らないそうです。海底の地形の影響で、大波が立つ場所なのだとか‥。


終わりは突然に‥


それでも僕が前へ漕ぎ進められたのは、自作のシーカヤックへの、絶対的な信頼感が有ったからです。

初めての船なので、そうとう頑丈に作っています。これが沈んだり壊れる可能性は、考えられません。

一緒にいれば、大丈夫! それだけが、心の支えでした。


しかし突然、それは起きました。
今まで、遠くで聞こえていた波の砕ける音が、背後から迫ってきたのです。


シャーッ!

振り返ると、あの巨大なウネリが、僕にかぶさるようにブレイクを初めています。
巻き込まれる!

気づかない間に、岸に寄りすぎていた。
でも、片側だけのパドルで、どうしたら良かったのか‥

後悔とも付かない気持ちがよぎる中、スローモーションで水のかたまりが落ちてきました。


沈む。と、いうこと‥


真っ白な泡の中、僕の身体は横倒しになり、そして逆さまに沈んでいきました。
「大丈夫! この船は不沈艦だから! 」 ‥頼みの綱の、カヌーに祈ります。


でも、願いに反して、水底に向かっていく船体。 ‥なぜ!?

水中でもみくちゃにされ、手の平から、最後のバドルが抜け出て行くのが分かりました。

空気の泡が混ざった水の中では、浮力が発生せず、固形物は沈んでしまうと聞いたことがあります。
あの時、リアルに感じた下降感は、泡のせいだったのか、大波の動きのせいなのか‥。


この時の僕は「まだ生きてる! 」「まだ大丈夫‥」。
そう、心の中で繰り返し続けるのが、やっとでした。


やがて泡が途切れ、うっすらと海底が見え始めます。
無事な自分を認識しましたが、僕らは浮く気配がありません。


と、濁った水中から、ギザギザした海底のサンゴの岩礁が現れ、前から迫ってきました。
とっさに、カヌーから脱出(今度は、すぐに抜けだせました)。

怪我をするか、割れ目に足を挟まれて、動けなくなるか‥。
恐怖を前に、それでも衝撃に備えます。


生還!


その瞬間は、直前まで続いた不運とは対象的に、まさにラッキーでした。


珊瑚礁の不安定な海底の地形と、海流の中。
マリンブーツを履いた僕の足は、偶然、左右とも固い岩を捉えていました。 (サンゴを踏まないくらい、深かったです)

しゃがんで踏ん張ってから、バランスを崩さず伸び上がる事に成功。
カヌーも、海底にぶつかって、向きが変わってくれました。

しかし、水没したカヌーの動きは重く、なかなか浮上してくれません。
息が続きそうにありませんが、命綱であるカヌーを、手放すわけにはいかないのです。


こらえていると、やがて海面が近づいて来ました。

やっと水面に顔を出した後、再び何度か砕ける波に巻かれました。
同時に、波によって陸側へどんどん運ばれて行きます。

海が極端に浅くなっていることが分かったので、できるだけ足を縮めます。
もはや、カヌーにしがみついているのが、精一杯。


そして‥。
ふと気が付くと、静かで暖かな場所にいました。
リーフの内側の海域に入ったのです。


旅の終わり


リーフの中は、まるで天国のように温い海水と、静かな水面でした。

あまり、助かったという実感は有りません‥。
なんていうか、心が疲弊しきって、何も考えられない状態。


もはやバドルが無いので、柄杓代わりの「ハイター」を斜めに切った容器で水を掻いて、陸を目指します。

そこから、砂浜まで、数十分。 いろいろ、後悔の道のりでした。
浜に着いた後、林の中にカヌーを隠し、徒歩でベースキャンプへ‥。


もう、海に出たく無い。
その時の正直な気持ちです。

結局、カヌーを回収しに行ったのは、それから一週間後でした。

そして、その間ずっと熱帯低気圧は停滞を続け、海は長い間、荒れ続けていました。
あの時、鹿川湾に戻っても、もしかするとダメだったかもしれません。





メッセージ


アクシデントとは、最悪のタイミングで、重ねるべくして 重なってやって来るようです。

あと一つ、不運が続いていたなら、僕は還って来れなかった。‥かも知れません。

あの時、ロープが船と繋がってなかったら‥。
あるいは、パドルを両方とも手放してしまってたり、何かに引っ掛けて、身体のどこかを切ってしまっていたら‥。 もしくは、海底に打ち付けられ、カヌーと離れてしまったとしたら‥。


さて‥。
これを読んだ人は、けっして熱帯低気圧の海にカヌーで出て行かないでしょうし、浮き球をコックピットに入れる事も(笑)しないでしょう。

そして、ロープや予備パドルはしっかりと船体に縛るように心がけ、パドルのジョイントが緩くなってないか、予備の食料や水はあるか、出航前に確かめて頂ければ、幸いです。


繰り返します。
最悪の状態の時に、さらに悪いことが重ならないよう、船や装備の状態は常にベストに、荷物もトラブルが起きないよう、しっかりと確認してから海に出てください。


という訳で、僕が死にかけた、ドジなお話でした。




PS:
今回は、危険提唱の意味で、当時の状況を、詳細にレポートしてみました。
‥もし、「俺のほうがもっと死にかけたぜ! 」なんて人がいたら、ぜひ体験談を送ってください。
僕のブログで紹介します。

あるいは、誰か仲間に話して下さい。


素敵な海での事故は、出来る限り、起きてほしくは無いものです‥。